引き続きいわきの旅のエピソードを。
夕方ホテルにチェックイン、カウンターで手続きして下さったホテルマンさんは、自分より少し年上ぐらいに見える方でしたが、
ロマンスグレーの髪をピッタリと撫でつけて見事なリーゼントスタイルに仕上げていました。
その方が部屋に上がるエレベーターまで僕たちを案内してくれたとき、僕が片手にぶら下げていたCDケースに目をつけ
「たくさんCDありますね、なに聴いてるんですか」と尋ねてきた。
一泊旅行のときは部屋で音楽を聴こうと、ポータブルプレーヤーと一緒にCDをひと抱え持ってくるのが習慣になっている。
中身は洋邦問わずロックからジャズから演歌まで、その場になって何を聴きたくなるか分からないのでまったく節操きわまりないセレクトなのだが、
なに聴いてるんですか、と尋ねられるとちょっと答えに困る。
ひとこと「いろいろです」と答えるのがいちばん正確だが、それじゃ答えとしてちょっと面白くない。というか何も答えてないに等しい。尋ねたほうもしらけるだろう。
そこで、そのホテルマンさんの見事なリーゼントヘアからとっさに思いついて
「矢沢永吉です」と半分ギャグで答えてみた。
たまたま今日は持ってきてないがヤザワのアルバムなら何枚か持っている。
「矢沢永吉!」とホテルマンさんは僕の回答にけっこういい反応をした。もしかしてツボにヒットしたのだろうか。
そこで僕はさっきから気になってたので
「ずいぶん立派なリーゼントですね」とホテルマンさんに言ってみた。
ふだん初対面の人にそんな軽口を叩けるタイプではないのだが、遊びに来ている開放感のせいでつい口をついて出てしまった。
ホテルマンさんもやや照れたように「10代のときからこの髪型ひとすじです」とウソかほんとか知らないけれどナイスなリアクションをくれた。
「こんなヘンなホテルマンはどこにもいないでしょ」と、閉まるエレベーターの扉の向こうで冗談混じりに見送って下さったが、
たしかに若いころは地元でブイブイ言わせ、さんざん女を泣かせてたのではと思わせる、革ジャンとバイクが似合いそうなオーラが漂っていた。
その晩、夕食や入浴をすませた深夜の12時近く、退屈しのぎに1階のロビーへ降りてみたら、
明かりが消えたロビーの片隅にさりげなく永ちゃんのアナログ盤が……。
ホテルマンさんに質問されて僕が当てずっぽうに放った答えは、かなり正確に狙いに的中していたみたいだ。
このアルバム、あのホテルマンさんの私物だろうか。
すぐそばにプレーヤーらしき機械もあったが、ときどきかけたりしてるんだろうか。
ロビーに大音響で響きわたる永ちゃんナンバー。
うーん、ピッグでグレートなホテルだぜ(笑)。