facebookの映画グループへの投稿の転載です。
本年初の劇場鑑賞はこの作品を選びました。
平日夜の回に行ったら客席にはなんと自分一人だけ。おかげで上映中誰にも遠慮せずにスマホのライトつけておおっぴらにメモをとることができました。
役所広司演じる公衆トイレ清掃員の毎日を描いたストーリーです。
初老で東京下町のアパートで独り寝起きする主人公平山(役所)。さぞわびしい暮らしかと思ったら、動作のひとつひとつがきびきびとしてて朝から仕事に燃えてる感いっぱいです。 なにげない日常をたんたんと描く系の作品と聞いていたので、退屈なやつかなーと懸念しながら観始めましたが、編集もテンポよくスピーディーで飽きさせません。
いやー、それにしても都内にはいろんな公衆トイレがあるもんだ。
主人公の洗練されたムダのない仕事ぶりはプロそのもの。長い修練、豊富な経験でとぎすまされています。横顔は矜持に満ち、ときに柔和な笑みもよぎるがその眼光は鋭さも秘めています。
トイレ清掃は基本ひとりでの作業。柄本時生とのエピソードをのぞき、映画には職場の人間関係はほとんど出てきません。こういう仕事は人と接するわずらわしさがない反面、誰の助けも借りられず責任はすべて自分にかかってきます。それも主人公の真摯な職務ぶりにつながるのでしょう。
「仕事は楽しそうにやってると本当に楽しくなるんだ」みたいな言葉を聞いたことがありますが、たしかにダラダラやってるとよけいしんどくなるのかも。
ま、渋谷の公衆トイレPRが映画の裏テーマでもあるので、きちんと働いてるところを見せるのは当然ちゃ当然でしょう。どんな職場だって現実に取材でカメラが入るとなれば、いつもよりマジメにやりますよねw
ひとつ気になったのは主人公の所作があまりにも凛としすぎてたとこかなー。部屋にひとりでいるときとかはもう少し力が抜けてるものではないかと若干の違和感がありました。おそらくこれは意図的な演技プランだと思いますが。主人公をけして打ちひしがれたみじめな人間には描きたくなかったのでしょう。
余計な口は一切きかない平山の寡黙さは、ネット上に空しい言葉があふれる現代への批判でしょうか。
何気ない日の光や影、物言わぬ植物の息づかいに喜びを見出し、文学や音楽、写真を楽しむ、自分なりの満たされたライフスタイル。半世紀近く前のラジカセでカセットを聞いたり町の写真屋さんに現像を頼んだりは現実にはむずかしいでしょうが。
淡々と日々の日課をこなし、ささやかなことを幸福とする平山の姿勢からは村上春樹作品の登場人物を連想します。まさに都会に隠棲する賢者の物語。
東京のなにげない風景も魅力的です。早朝の場面が多く通行人も車も少なめ、すがすがしい空気感がスクリーンに満ちています。
ほかに誰もいない劇場でたっぷりと作品に向かいあうことができ、新年早々幸福な映画体験でありました。